「ねぇ、さん!跡部くんって、実際はどんな感じなの??」

「跡部?・・・んー・・・・・・。なんか、美技とか言ってよくわかんないし・・・、ナルシストだし・・・、我が儘だし・・・、試合前に変なコールしたり、ジャージ投げたりして、それを拾う樺地くんのことも考えてあげたら?!って感じだし・・・。」



などと思ったことを次々と並べていけば、目の前の彼女からだんだん殺意を感じてきた。・・・マズイ。



「というような批評をする人も居るみたいだけど、実際は・・・・・・部長ってこともあって頼れるし・・・、あと・・・すごく優しいってわけじゃないけど、ちゃんと部員たちの様子を見てて優しいところもあるよ。」

「ストレートな優しさじゃなく、ちょっとした気遣いができる、って感じかしら?」

「そういう感じかなー。」

「やっぱり!!素敵よね、跡部くん!」

「ハハ・・・。あくまで私は部長とマネージャーの関係だから、素敵だとかは思わないけど・・・いい部長だとは思うよ。」

「そうね、ありがとう。」



そう言うと、満足そうに彼女は去って行った。



「はぁ・・・。」

「お疲れ様。」

「・・・あ、。」

「跡部様親衛隊の相手は、もう慣れた?」

「慣れたら、こんなに苦労しないよ・・・。」

「たしかに。」



なんてことを言いながら、綺麗な笑顔を浮かべているのは、同じクラスで仲の良いだ。



「他人事だと思ってー・・・。」

「だって、他人事だもの。」

「う・・・。そうだけどさー・・・。もうちょっと、優しい言葉をかけてあげようとか思わないわけ?」

「そうねー・・・。じゃ、頑張って!」

「・・・結局、他人事じゃない・・・・・・。」



ちょっと冷たくも見えるけど、このが私にとっては1番の友達で・・・。誰よりも一緒に居て落ち着ける相手だ。・・・当然、跡部様親衛隊の方々なんかとは比べ物にならないぐらいに!!



「じゃあ・・・。せっかく近くに居られるんだから、良いところも探せば?そうすれば、親衛隊へ話すことも増えるでしょ?」

「近くに居ると、余計なことの方が見えるよ。」

「・・・相変わらず、跡部くんの扱い、悪いわねぇ〜。」

「だって、近いと本当、イラつくんだって!!みんなは知らないで、あんな風に言うけど・・・!!」

「それ、親衛隊の子に言ってみたら?」

「無理。私が疑われて、私が殺されるよ・・・!」

「面白そうじゃない!」

「面白くない!!」



本当に、が友達なのか、ちょっと疑いそうになった・・・。

でも、の言うことも一理はあるかもしれない。うん、ものすごく可能性は低いけど。
と思いつつ、私は部活中、いつになく跡部の姿を眺めていた。
う〜ん・・・。たしかに、カッコイイとは思うけど・・・。好きにはならないんじゃないかなー・・・。
などとぼんやりと跡部を見ていると、その視線に気付いたらしく、跡部がこっちに向かって来た。



「何だ?」

「あ、ごめん。用は無い。」

「おいおい・・・。俺様に見惚れるのは仕方ねぇが、今は部活中だぜ?」

「うん、わかってるし、見惚れたつもりはないから安心して。」

「用も無く、あんなに視線を送っておいて、見惚れてなかったわけがねぇだろ。」

「・・・跡部って、本当、自分のこと好きだよねー。」

「当然だ。」

「・・・いや、まぁ、私もそれに負けず劣らず、私のことが好きだけどさ。」

「何だよ、そこは俺様じゃねぇのか。」

「うん、違うね。男1人を大事に思うより、自分の方が大事だから。」

「はっ。相変わらず、面白ぇ奴だな。マネージャーの言葉とは思えねぇよ。」

「その言葉、そっくりそのままアンタに返すよ。」

「何言ってやがる。俺様ほど、部長に適した――。」

「あー、もう、はいはい!わかったから。さっさと部活に戻って、ってば。用も無く、ステキなステキな跡部サマに見惚れてしまって、どうもスミマセンでしたー!」

「気に障る言い方だな・・・・・・まぁ、いい。・・・視線だけでも気付いてやれるとは思うが、本当に何か用事があるときは、部活中だろうと呼べばいいからな?」

「え・・・、あ・・・うん。ありがとう・・・。」

「別に・・・。じゃあな。そっちの仕事は任せたぞ。」

「はい。」



思わず、私もマネージャーとして、真剣な声で返答した。
・・・そうなんだよね。私も親衛隊の子に言ったけど。やっぱり、部長としての気遣いは素晴らしい。あんなに偉そうに言っていたくせに、最後の最後で優しいフォローの言葉を持ってくる。・・・そりゃ、オちない方が珍しい。
いや、私はオちてないんだけどね。うん、全然オちてない。だから、私は珍しい方だ。
とは言え、珍しくない、跡部様親衛隊のみんなはこんな跡部の態度を知ってるのかな??知らないけど、好きなのかな?そう考えると、何だかちょっと・・・・・・変な気分になった。何だろう・・・。言葉じゃ表しにくい。
・・・・・・って言うか、逆なのか。ああいう跡部の一面を知っている私だけがオちてなくて、それ以外の子はオちているということは、私が珍しいわけじゃなく、“跡部のそういう一面を知らないのにオちない子”が珍しいんだ。・・・おぉ、筋が通った。・・・・・・って、何か無理に通そうとしたみたいだけど。決してそういうわけじゃなくて!!うん、断じて違うから。



「何が違うの〜?」

「うわっ!!・・・じ、ジロー?!アンタ、いつからそこに??」

「ん〜?今だけど?」

「そ、そう・・・。で、何?私に何か用?」

「用も無く、話しかけちゃダメ??」



まだ寝ぼけているのか、ジローが少し舌足らずな感じでそう言った。
こういうとこだけを見てるから、可愛いとか思うんだろうなぁ〜、ジロー親衛隊の皆様は。もちろん、起きているときは起きているときで、また可愛い!って思うんだろうけど。それだけじゃないんだよね、ジローも・・・・・・。だって、私、さっきの言葉、口に出したつもりはないんだけど?



「ダメってわけじゃないけど・・・。一応、今は部活中だから。何かあるのかなーって思うのが普通でしょ?」

「でも、だって部活中なのに、跡部のことず〜っと見てたんでしょ?」

「・・・ねぇ、ジロー。さっき、『いつからそこに?』って聞いたら、『今』って答えなかった?」

「うん、ここに来たのはついさっきだよ?でも、2人の様子は遠くから見えてたから。」



そう言って笑うジローを見て、私は少し寒気がした。
この子、絶対自分が可愛いことを自覚してるわ!・・・・・・って、私もうっかり“この子”呼ばわりしちゃってるんだけど。だって・・・、やっぱり可愛いモンは可愛いのよ・・・・・・!
そんなジローに言い返す気が出るわけもなく、私はただ大人しく返事をしただけだった。



「そう・・・。」

「それで、特に用は無かったんでしょー?」

「まぁ、そうね。」

「じゃあ、俺だってに喋ってもEよね??」

「はい、仰せの通りです。」

「へへー。よかった!」



可愛く見えたかと思うと、今度は怖く思えて・・・・・・。要は、どちらにしても、私がジローに勝つ術は無さそうだ。



「それで。どうして跡部のこと見てたのー?」

「いや、そんな大した理由じゃないんだけど・・・。」

「うん、それで?」



やっぱり、逃げ切れるわけがないわね・・・・・・。
というわけで、私は簡単にとの会話をジローに話した。



「――そうなんだー!俺、てっきりは、跡部のことが好きだと思ってたよー。」



私の話を聞いた後のジローの発言に、思わず固まる。
自分的にあり得ない、という意味で。跡部に聞かれたら勘違いされてしまう、という意味で。そして、何より、親衛隊に聞かれたら殺されてしまう、という意味で。



「いや、ないないないない!!!!」

「そんなに否定するところが怪C〜!・・・なんつって。」

「って言うか、むしろ、なんでそう思ったのか、が不思議なんだけど。」

「そう?俺から見れば、2人は仲良さそうで、お似合いだなーって思うけど。」

「・・・・・・まぁ、部長とマネージャーだからね。仲悪くは無いけど・・・。」

「うん、だからお似合E〜。」



いや、だから、の意味がわからない。第一、さっきも考えたけど。私と跡部がお似合いだなんてことはあり得ない!そんなことを言ったら、親衛隊の皆様に怒られるに決まってる!私が跡部のことを好きになっただけだとしても、絶対親衛隊は許さないだろう。だから、私が跡部を好きになったらダメなんだってー!!
・・・・・・って、アレ。今のおかしくない??まるで、私が自分の気持ちを我慢してるみたいな・・・・・・。いやいや。そういう意味じゃなくて。



「もっと素直になってもEと思うよ、。」

「!!」



また、まるで心を読まれたかのような言葉を返され、動揺する。・・・・・・うん、本当。それ以外の理由は無い。

その後も落ち着いて考えてみたけど、やっぱり私が跡部のことを好きだというのはあり得ない。だって、あの跡部だよ?!親衛隊にも怒られるし・・・・・・、怒られるし・・・。あと、何か悔しいし。うん、それ以外の具体的な理由は、意外と難しいけど。
とは言え!絶対、探し出してみせる!!無理にでも!・・・・・・って、これじゃ、本当は好きなのに、我慢してるみたいだけど、決してそういうわけじゃない!!

などなど。いろいろと考えていたら、あまり寝れなかった。次の日、寝不足、とまではいかないけど、少しボーッとした頭で教室に向かった。



「おはよう、。」

「おはよー・・・、。」

「どうしたの?何だか、疲れてるみたいだけど・・・?」

「うーん・・・・・・。ちょっと、ね。」

「もしかして・・・・・・。恋の悩みで寝れなかった、とか??」



嬉しそうな笑顔で、は言った。何なんだ、その勘の良さは。って、違う。正確には、恋の悩みではない。・・・・・・ちょっと似てるかもしれないけどさ!



「私は勘が良い方なのよ?」



・・・・・・うん、今のの発言は偶然だよね。決して、私の心を読んだわけじゃないよね?そうだよね?!そんなに、何人も居たら嫌だから!



「失礼ね。」

「な、何が・・・・・・。」

「私の質問に答えないでいるからよ。」



あぁ、そっちか。・・・・・・さすがに、そんなことはないよね。



「それで、どんな考え事だったわけ?」

「・・・・・・。」



説明すると、何だか面倒なことを言われそうだ。だからと言って、黙っておくのも、結局は面倒なことを言われそう。うぅ、どうしたらいいんだ・・・!



「何?跡部くんのことでも考えてたの?」

「・・・・・・ま、まぁ、そんなとこ。」

「へぇ〜・・・・・・?」

「いや、なんかさ。昨日、ジローが変なこと言い出して。」

「変なこと?」



あくまで冷静に、昨日のジローとの会話を説明し、そして、私の気持ちも話した。そう、決して、私は跡部を好きになんて、なりたくないんだってこと。
最初は、少しニヤニヤしていただったけど、最後は真剣な表情になっていた。・・・・・・な、何?



「ねぇ、。私って、にとって、どういう存在?」

「え?ど、どうしたの、急に・・・・・・。」

「たしかに、認めてしまえばつらいことや困難なこと、いろいろあるかもしれない。でも、それも分かち合えるのが友達でしょ?」

「どういう・・・・・・。」

「だから!私には変な意地を張らないでほしい、ってこと。そんなことしてるから、疲れんのよ。せめて私の前では素直になれば?」

・・・?」

「あんたは、跡部くんのこと、本当はどう思ってんの?」

「・・・・・・・・・・・・好きになっちゃいけない、って思ってる。」

「それはつまり?」

「・・・・・・好き・・・なんだと思う。」

「うん、よく言った!そういうことなら、これから応援もするし、相談にも乗るから。遠慮なく話しなさいよ?」

「・・・・・・わかった。ありがとう。」

「当たり前でしょ?」



がニコッと笑い、それを見て、私も自然と笑顔になる。・・・・・・ありがとう、。自分の気持ちを言ったら、何だかスッキリした。
それから、私の気分は晴れやかで、張り切って部活に向かった。・・・・・・でも、意識したら、跡部と顔合わせられない。



ー!」

「ひゃっ!!・・・って、ジローか。驚かさないでよ!」

「驚かしてないよー。ただの挨拶!」



そう言いながら、ジローは私に抱きついたまま離れない。でも、そこで寝ようとは考えていないようだ。



「珍しいね、ジローが起きてるなんて。」

「むむっ!失礼だC〜。俺がいっつも寝てるみたいじゃん!」

「いっつも寝てるじゃない。」

「あれ?そうだっけ?」

「そうです。」

、厳C〜!」

「事実を言っただけでしょ?」



なんて、ジローに足止めを食らったせいで、会ってしまった。



「おい、お前ら、何してやがる・・・・・・?」

「跡部・・・。」

「跡部だー。何って、別に何も?ただ、喋ってただけだよねー?」

「うん、そうだね。」

「だったら、その体勢は何だ?」

「ん?普通でしょ?」

「普通じゃねぇだろ。も少しは警戒しろよ。」

「えっ・・・。あー、うん。そっか。じゃあ、ジロー、離れて。」

「えぇー?」

「えぇー、じゃなくて。私もジローのファンの子らに殺されたくないから。」

「何それ?ま、いいや。離れてあげる。」

「ありがと。」

「じゃーねー!」

「はいはい。部活中も寝ちゃダメだからねー!」

「わかってるよー。」



ようやく離れてくれたジローの背中を見ながら、ため息を吐けば、それよりも大きなため息が横から聞こえた。・・・・・・そうだ、跡部が居たんだった。



「ごめん。私もマネージャー業に戻ります。」

「待て。その前に、だ。」

「な、何・・・・・・?」

「なぜ、ジローから離れようとしなかったんだ?」

「え?離れたじゃない。」

「俺に言われてから、な?自分から離れようとはしなかったじゃねぇか。」

「あぁ・・・・・・。うん、ジローだから、ね。」

「どういう意味だ?」

「どういう意味って・・・・・・。ジローって子供っぽいと言うか、何と言うか。警戒しようって思わないんだよね。」

「それは・・・・・・男としては見ていない、ってことか。」

「その言い方はどうかと思うけど・・・・・・。まぁ、そうなるんだろうね。」

「じゃあ、俺だったらどうなんだ?」

「・・・・・・はぁ?」



突然何を言い出したのか、そんなことを思っていると、さっきのジローのように、跡部が後ろから私を抱きしめた。
・・・・・・って、うわ!!



「ちょ、ちょ・・・!何やってんの?!」

「そこまで焦るってことは、俺は男として見られてはいるってことか。」

「な、何呑気なこと言ってんの?!放して・・・!!」

「断る。」

「はぁ?!」

「いいから、このまま聞け。」



いつものような偉そうな口調ではなく、少し懇願にも聞こえるような声音に、思わず私もじっとしてしまった。



「俺は、惚れた女が他の男に抱きしめられてるのを見て、放っておくことなんかできねぇし、惚れた女が何か言いたげにこちらを見ていても、放置することなんてできねぇ。」



跡部は、さっきのこと、そして昨日のことを言っているように聞こえる。じゃあ、その“惚れた女”って・・・・・・?



「それと、惚れた女は、自分の手で幸せにしてやりたいと思う。だから・・・・・・、俺を選べ、。」



それも命令ではなく、お願いのように聞こえた。いつになく、ほんの少しだけ弱気に感じる跡部。・・・・・・と言うか、いつもが自信過剰なだけかもしれないけど。
でも、もしかしたら、跡部も少しは不安な部分があるのかもしれない。私の気持ちは、私にしか決められないから。そして、そのことを悟られたくなくて、顔が見えないよう、後ろから抱きしめているとしたら・・・?



「・・・・・・わかった。素直に跡部を選ぶよ。私も、惚れた男と幸せになりたいと思うから。」



そう言って、私は跡部の腕にそっと手を乗せた。これは、跡部の気持ちに応えるためと、そして私自身も顔を見せないようにするため。・・・・・・だって、今、跡部の顔とか見らんないし。自分も、どういう表情をしていいかわかんないし。
そんなことを考えていたのに、跡部は突然ぐるっと私の体の向きを180度変えた。・・・・・・って、跡部と向かい合わせになったんだけど?!



「安心しろ。俺を選んだからには、世界一幸せな女にしてやるよ。」



そこにあったのは、いつも通りの自信満々な跡部の顔。・・・・・・私の答えを聞いて、元に戻ったんだろう。でも、さっきまでは、確実に不安そうだった。それがわかるのも、きっと私だけなんだろうと思うと、こういう高慢な態度も少しぐらいは許してあげようって思ってあげた。
・・・それにしても。私が自分の気持ちを自覚してから、すぐに事が上手く運んだ。・・・・・・偶然?それとも・・・。そう考えながら、私は跡部を目の前にしながらも、脳裏には親友といつもは眠たそうにしている仲間、2人の顔が浮かんでいた。・・・・・・まさか、ね?













 

少し長めだったかなと思っていますが(汗)、最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました!
私としては、跡部さんにはツンデレ女子!もしくは芯はある大人しめな女子!ってイメージが強いので、今回はことごとく抗うツンデレヒロインを書いてみました☆その結果、話が長くなりました・・・;;

何となく、跡部夢は久しぶりだな、と思っていましたが・・・。1年以上空いていたんですね!そりゃ、久しぶりです。
その所為か、完成するのも、いつもより遅かったような気がします・・・(苦笑)。

('11/04/29)